Let It Be

初めて音楽を「こういうのを人類の遺産っていうのかも・・」と思ったのがこの曲だった。それまでにも大好きで、今でもずっと聴いている曲はたくさんあるけど、この曲のシンプルな歌詞に初めて気がついて心から救われた。今思えば、この曲、かなり宗教的で、だからそう思ったのかもしれないけど。

あれはアメリカに住んで何年目だったのかな。心が塞いで永遠に冬のような冷たい場所に居た。病院で抗鬱剤を処方されそうになったほど、すべてが色褪せて心が重くて重くて痛い。それでも、朝ベッドから這いずり出して、アーミーの払い下げで買った長くて重いコートに袖を通して白い息を吐きながらひたすら歩いた。地面ばかり見てたからいつも誰かにぶつかりそうになってた。途中でスタバに寄って熱いコーヒーを買って職場へ行った。

午後は美術館で働いた。インターンだから全然お金にならなかったけど。フランス人のディレクターやスペイン系のアシスタントマネージャーは素敵な大人だった。同僚の生意気なアメリカ人達も今となっては懐かしい。美術館のしくみもわかったし日本から来た色んなアーティストの人達とも知り合えた。夜は日本食レストランで働いた。夜12時頃大通りの教会の前を通ると祈るような気持になった。真夜中でも輝いていた崇高な塔を見上げてぼんやりと立ってた。きっとこの暗い心のその先へ行ける事を信じられる何かをもらいたかったんだと思う。

あの迷路のような暗いトンネルに居たとき、ジョンが歌うこの曲がラジオから流れて衝撃を受けた。こんな内容だったんだーって。そして涙が出てきた。何カ月も休日は全く起き上がれなくてずっと横になりながら過ごしてたから涙が出て仕方がなかった。

今でもまだそんな日を送ることがある。苦しいのは同じだけど。
でも、今では大体みんな何かを抱えて生きているんだろうな、とか、それでも平気な日々を演じて生きているんだろうな、とか思えるようになった。それがジョンの歌のお陰だったのか、ただ単純にそれが年を取るって事なのか、それはわからないけど。


Vic